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2011年3月11日 東日本大震災 宮城県気仙沼市 小山裕隆撮影
2021年3月11日公開
10年前の東日本大震災では、避難していた河北新報ビルから店舗と自宅が流されていくのを目の当たりにしました。言葉にできない程の無慈悲で暴力的な自然の猛威、建物と建物がぶつかり、ギュウギュウときしむ音を立てて流れ、黒い濁流に次々と飲み込まれていきました。一緒にその場にいた父は、言葉なく立ち尽くしたままでした。夜には火災で故郷が海ごと燃えました。一体どれだけの人が亡くなったのだろう、絶望的な光景でした。それでも、その日、その瞬間、ぼくは、お店の再建と故郷気仙沼の復興を人生賭けて必ず成し遂げると誓いました。命以外もう失うものは何もない。不思議と情熱が湧き上がってきました。
親戚のお宅でお世話になりながら、ゼロからのスタート。手持ちのお金は家族3人で6万円。貯金はわずか。事業の資金は金庫ごと流されていました。まさか自分が現実にそういう状況になるとは、思いもしませんでした。着るもの、食べるもの、衣食住の全ては、親戚と友人知人、全国の皆様からご支援いただいたもので生活していました。全てが優しく、あたたかく、感謝の気持ちで幸せでした。家族はただの一度もひもじい思いをすることはありませんでした。
東京の弟から送られてきた中古のノートPCを開くと、ゴミ箱のアイコンが一つのみ。親戚からモバイル通信の機材を借りてHPを制作。父の知り合いの工場を夜に借りて親子でカステラを作りネット販売しました。2ヶ月後にみなし仮設のアパートを借り、お店のテナントを借り、親戚に商用車を買ってもらい、震災から5ヶ月後に菓子店を再開しました。店舗と工場設備は、釜やミキサーはもちろん、ナイフ1本、スパテラ1本まで全て新品で買い揃えました。大きな借金をしましたが、それくらいは小さな問題でした。
オープン前日夜、父がピカピカのショーケースをじっと眺めながら感慨にふけっている姿は今でも忘れません。おかげさまで全国の皆さまにたくさんの復興支援のお買い物をしていただきました。このままいけば店舗再建も近いと思われた震災から1年後、父に癌が見つかり、ステージ4と診断、闘病の後2013年1月、天国へ行ってしまいました。61歳でした。生き甲斐だった菓子作りを再開し、まさに人生これからというときどれほど無念だったか。臨終で父とたくさん約束をしました。父のやりたかったことをぼくが引き継ぐ、と。父の分も恩返しする、と。必ず店舗と自宅を再建させる、と。危篤で意識がないと思われた父も手をあげて反応してくれました。手を取り合って約束した1時間後に旅立っていきました。人生は有限であることを最後に教えてもらいました。
父と約束したものの現実は想像よりずっと大変でした。大黒柱の父に頼りきりだったので、菓子作りも経営も半人前でたちまち赤字に転落。スタッフも去っていきました。1人残ったスタッフと菓子作りするも失敗の連続、失敗した原因すら分からず、何度作ってもうまくいきません。廃棄するお菓子のゴミ袋だけが増えていきました。お菓子でパンパンのゴミ袋を持つと、重さで結び目が手に食い込み、情けなさを倍増させました。途方に暮れていた時、助けてくれたのは父の友人や同業者の皆さまでした。作り方を教えてもらったり、アドバイスをいただいたり、「親父さんには世話になったから」「お父さんにはいつも面倒を見てもらったから」必ずそのことを言われました。死んだら終わりではなく、父は天国から周りの人を介してぼくを助けてくれました。
駐車場がなくて困っていた時は、アパートの隣の方から「うちの庭にとめていいよ」と声をかけていただきました。「あんだのおじいちゃんに世話になったから」と。父だけではなく、祖父までも天国からぼくを助けてくれました。明治から菓子屋を続けてこられたことは、先代、先々代、先祖が誠実にこの地域で菓子屋を営み、地域の皆さまと共に生きてきたからこそだと思いました。ぼくもこの地にご恩返ししたい。故郷に対する想いがより一層強くなりました。
その後、店舗再建の目標を掲げるも、用地確保に難航しました。元の場所は災害危険区域で建てられず、他の場所で探しましたがまったく見つかりません。市内の不動産屋は全て回り、八方手を尽くしましたが、時間だけが過ぎ、震災から6年が経過しました。市街地の復旧が進む中、他の被災事業者のほとんどが再建し、補助金の期限も迫ってきました。焦りと不安で押しつぶされそうになりました。それでも父との約束や、これまで多くの人に応援してもらっていることを思い出す度に情熱が湧いてきました。いい時もそうでない時もプラスに考えられるようになりました。
南気仙沼地区の災害危険区域の解除に伴い、使えなかった元の場所での再建が見えてきました。そこでも更に足踏みしましたが、おかげさまで震災から7年後に自宅を再建、8年8ヶ月後に新店舗を元の場所に再建出来ました。自分の未熟さえ故にだいぶ回り道をしました。時にたくさんの人に迷惑をかけ、心身ともに疲弊し修行のような期間でしたが、すんなり再建するよりも逆に得難い経験をさせてもらったと感謝しています。その上父との約束の地で再建出来たことは、父に導いてもらったのかもしれません。
震災から3653日、本当に多くの人に支えられ、ご縁をいただき、今を生きています。奇跡のような毎日です。現在は頼もしいスタッフも増え、家族親戚、天国の父と一緒に、たくさんの人にお力を借りながら、次の目標「新店舗うみねこランド(仮)」建設に向けての日々です。近い将来、日本、世界から注目されるお菓子屋になり地域にご恩返しをすることを生涯かけて必ず実現させます。ぼくは、生かされた命、この気仙沼に預けました。
最後に改めて、この10年間、多大なるご支援していただいたこと、気仙沼に心を寄せていただいたことを心より感謝いたします。本当にありがとうございました。
2021年3月11日 宮城県気仙沼市 コヤマ菓子店 五代目 小山裕隆
コヤマ菓子店
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